【書評】特殊清掃 死体と向き合った男の20年の記録

 

この本は、特殊清掃の仕事を20年している著者の記録である。

 

そもそも特殊清掃とは、遺体痕処理から不用品撤去、遺品処理、ゴミ部屋清掃、消臭、消毒、害虫駆除まで行う作業のことである。

 

自分の死後がどうなるか考えたことがなかったのだが、孤独死や自殺で発見が遅れた死体は腐敗が進み、ハエなどが舞い遺体痕なるものができるらしい。あと、腐敗臭がすごいこともわかった。だが、実際にはこの現場に立ちあったことがないため、どのくらいのものなのかは想像しようにも想像がつかない。

 

朝、いってきますと言って出かけた夫が仕事中に事故で帰らぬ人となったり、死亡率が1000分の3の手術で命を落としてしまった少年だったりの話を読むと本当に人は明日どうなるかわからない、無事生きている保証なんてないんだよなあと感じた。むしろ無事に今を生きていることが奇跡なのかもしれない。

 

百歳を超えた老婆が死んだときの依頼で訪問した時は、大勢の身内や親せきが集まって酒盛りをしていた。百年以上の生涯を全うしてめでたいということだそうだ。みんながみんな死をこうやって逆にめでたいって迎えられたら良いのかもしれないがこっちのほうがまれだよなあ。

 

著者が依頼に出向いたら、昔の知り合いだったというエピソードも心に残った。故人は、昔は羽振りが良かったが死ぬときは借金苦で亡くなったらしい。本当に人はどうなるかわからないものだな。知り合いの清掃をする気持ちも計り知れない。

 

おでんの話はちょっと笑ってしまった。故人の好きだった食べ物を柩に入れようということでおでんになった。それも、え?おでん?って感じなのだが、親せきと遺族でおでんの卵は殻付きか殻付きじゃないか論争が始まったのだ。著者もこのときこの話題を振られたのだが、そのとき機転のきく返しをしててすごいと思った。

 

最後の、年配の男性の遺品処理の話はなんだか穏やかでもあり切ない気持ちになった。亡くなった妻が残した荷物を片付けるついでに自分の死後始末の段取りをつけるために依頼したんだけど、この男性が「人生は一度しかないからいいんですよ。二度も三度もあったら必死に生きないでしょ?」って言うところがすごく腑に落ちた。確かにって。

 

 

この本を読んで、自分もいつ死ぬか分からないし自分の周りの大切な人たちだっていつまでも周りにいてくれるわけじゃないから日々を必死に感謝の心を忘れずに生きようと思えた。